埼臨技会誌 Vol
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58 近年,がん関連分野において次世代シークエンサー (Next Generation Sequencer:NGS) を用いたクリニカルシークエンスが実用化され,2018年4月より,がんゲノム医療中核拠点病院の指定,遺伝子パネル検査の先進医療の開始など,国内における,がんゲノム医療への取り組みが行われており,2018年は,「がんゲノム医療元年」といっても過言ではない. がんゲノム医療におけるクリニカルシークエンスは,患者への検査説明・同意,病理検体の取り扱い,核酸抽出,核酸の量と品質の評価,ライブラリー調整,NGSによる解析,医学的解釈,エキスパートパネル(専門家会議)での意義付け,患者への結果説明という,多数のステップからなる. 臨床検査技師は,がんゲノム医療において,多数の業務に関わる事が可能であり,業務の拡充が期待される.今後,がんゲノム医療において,臨床検査技師が関与する,主な認定資格を述べる. 1.患者説明「がんゲノム医療コーディネーター」 クリニカルシークエンスの患者への検査説明は「検査によって何がわかるのか?」という事や患者側の検査への大きな期待に比して,現状では,治療薬に行き着くのは,約1割という大きなギャップが存在し,理解を得ておく必要がある.また生殖細胞系列の遺伝素因を持つと判明した場合,遺伝カウンセラーとの連携も必要となってくる. これら総合的な知識を持った,患者に説明する担当者の育成を目指し,厚生労働省の「がんのゲノム医療従事者研修事業」が日本臨床腫瘍学会に委託され,人材の育成を進めている.なお,この人材を「がんゲノム医療コーディネーター」と名付け,協力学会として日本臨床衛生検査技師会も2018年2月24日「がんゲノム医療コーディネーター取得に向けた講習会」を開催した. 現在,正式な認定資格とはなっていないが,将来,認定制度が構築されると予想される. 2.病理検体の取り扱い「認定病理検査技師」 がんゲノム医療においては,現在のところ,病理検体は,ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed, paraffin-embedded:FFPE)による検体が主に取り扱われる.この際,ホルマリン固定の条件が核酸の品質に大きく影響し,核酸の品質を落とさない病理検体の取り扱いが重要となる. 日本病理学会と日本臨床衛生検査技師会は,「認定病理検査技師制度」を立ち上げ,2014年より試験が開始されている.なお,カリキュラムで分子病理学的検索の原理を理解し,病理組織標本作製に関する知識を求めており,コンパニオン 診断を含めた,遺伝子関連検査における病理検体の取り扱いの適正化の中心的役割を担う存在として期待されている. 3.解析技術「認定臨床染色体遺伝子検査師」「遺伝子分析科学認定士」 がんゲノム医療におけるNGSを含めた遺伝子関連検査は,臨床検査技師の主な担当業務であり,幅広い検査技術の理解,力量の維持は,認定資格の取得目的でもある. 日本臨床衛生検査技師会と日本染色体遺伝子検査学会の「認定臨床染色体遺伝子検査師」は,染色体分野と遺伝子分野が存在し,出題内容に実務経験が問われる部分がある. 日本遺伝子分析科学同学院の「遺伝子分析科学認定士」は,臨床検査の総論及び技術的な学科試験に加え,基本的操作の動画試験,実技試験を行う事が特徴的で,上級の一級試験も設定されている. これらの検査技能に関する認定資格により,高い資質を維持することが可能となる. 4.医学的解釈「ジェネティックエキスパート」 NGSを用いた解析は,大量の塩基配列情報が得られ,体細胞及び生殖細胞系列を含め,多数のバリアントを検出する.これらのバリアントが病的なものかどうかの判断,そして病的であれば,エビデンスレベルがどの位なのか調査しなければならない.また意義不明なバリアントも認められる事もある.これらの多数のバリアントから医学的解釈を行う為には,データベースを用いた検索は必須であり,今後,がんゲノム医療における医学的解釈を行う為には,幅広い知識を持った人材が求められる.これらの人材を育成するために,日本遺伝子診療学会では「ジェネティックエキスパート認定制度」を立ち上げている.試験では,データベースの検索を実技試験として用いているのが特徴である. がんゲノム医療における検査の社会実装に向け,関連団体や学会等の取り組みが活発となってきた.その中でも人材の育成は急務であり,認定資格を取得する事は,ひとつの手段であろう.幸いな事に,臨床検査技師には,今回紹介したように,様々な分野の認定資格が設定されている状況である.これは,がんゲノム医療における,今後の臨床検査技師の取り組みが各分野から注目され,期待されているという事に他ならない.ぜひチャレンジして頂きたい. がんゲノム医療における臨床検査技師の役割と認定資格について 柿島 裕樹 (国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 病理・臨床検査科) 柿島 裕樹…(国立研究開発法人…国立がん研究センター中央病院…病理・臨床検査科)がんゲノム医療における臨床検査技師の役割と認定資格について

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