埼臨技会誌 Vol
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【臨床検査技師の救急チーム医療参画への必要性】 “いなくても困らない臨床検査技師”から“いなくては困る臨床検査技師”に・・・. 林 恭子 (三郷中央総合病院) 59【臨床検査技師の業務を他の職種が行っている現実】 あなたの施設では臨床検査技師が救急外来に出向くことがありますか? 施設の方針,施設規模,検査室の体制,救急外来と検査室との物理的距離など様々な要因が絡んで行けないのかもしれませんし,行かないのかもしれません.では,そこで日々繰り広げられている救急診療の現場に臨床検査技師は全く必要ないのでしょうか. ある病院の救急処置室です.CPA(Cardiopulmonary Arrest:心肺機能停止)の患者さんが運び込まれてきました.救急隊の一人は胸骨圧迫を,一人はバックバルブマスクによる人工呼吸を行い,救急室のストレッチャーに移乗するのに手が足りません.救急室スタッフも加わり総出で患者さんを移します.医師は救命処置の指示を出しながら身体診察,病歴確認,動脈血ガス採取,気管挿管などを行い,看護師さんはライン確保,採血,医師の指示による点滴,薬剤の準備・投与,救命処置中の時間測定や記録などで忙しくしています.交代しながらのスタッフの懸命な胸骨圧迫と処置も加わり心拍再開.すぐさまバイタルサインチェック,12誘導心電図,ポータブルX線撮影,超音波検査,CT・・・ICUへ. もしこの場に臨床検査技師がいて,動脈血ガスを測定し,手の離せない医師に結果を口頭で伝えたら,もし看護師さんがとる末梢静脈ルートからのシリンジ採血を受け取り,適切な容器に適切な量を分注すれば,どんなに現場は助かるでしょう.検体はすぐに患者情報や病態・診療状況とともに検査室に届き,緊急度の高い検査結果を直接口頭で報告すれば,担当医のみならず救急スタッフは処置の手を止めることなく,病態把握や治療に必要な検査結果を得ることができます.これらの行動はどれだけ患者さんのためになるでしょう.もし心電図や超音波検査に慣れている臨床検査技師がその場で素早く撮れば,記録も残り,その間に医師は本来の診療業務ができ,どんなに喜ばれるでしょう.患者さんの移乗を介助し,胸骨圧迫を「交代します」と言えたなら・・・. 平成28 年度の全国の救急自動車による救急出動件数は,620 万9,964 件(前年比15 万5,149件増),搬送人員数は562 万1,218 人(前年比14 万2,848 人増)で救急出動件数,搬送人員数ともに過去最高を記録しました.うち高齢者(満65歳以上)は 321万6,821人(57.2%),対前年比増加数142,848人のうち高齢者増加数は112,453人と78.7%を占め,他の年齢区分に比べ群を抜いて増加しています1). 特に埼玉県の75歳以上の高齢者人口は全国一のスピードで増加し,2025年以降も増え続けると推計され,急速な高齢化の進展により,医療や介護の需要は大幅に増大することが見込まれます.さらに,生産年齢人口の減少により,医療・ 介護を担う人材の確保はより一層困難となることが想定されます2). そのような社会情勢の中,救急チーム医療の必要性も増し, 救急専門医(1983年),救急認定看護師(1997年),救急撮影認定技師(2010年),救急認定薬剤師(2011年)と各職種に救急認定制度が発足しました.我々臨床検査技師も2012年救急認定検査技師制度を立ち上げ,救急医療に積極的な取組を始めました3).2014年に「救急検査認定技師」資格取得者が誕生し,2016年には日本臨床衛生検査技師会認定センターへ機能移管し,「認定救急検査技師」と名称変更しました.2018年現在,全国405名(うち埼玉県17名) の認定救急検査技師が活躍しています4). 臨床検査技師が救急チーム医療の中で他の医療スタッフと協働するためには,救急での共通言語や救急診療の知識が必要となります.救急診療の現場に赴き,情報の共有と状況を把握し,刻々と変わる急性病態に求められる検査結果を,緊急度を軸に行動できれば,今まで以上に一歩進んだ結果報告ができるはずです.さらに,一次救命処置(BLS)などを含む救急の知識や技術は救急室だけにとどまらず,病棟,外来,生理検査室などの院内はもとより,在宅医療でも起こりうる急変時に対応できる知識であり,これからの臨床検査技師に必要不可欠な知識であるとも言えます. 救急医療の基礎知識は年5回行われている認定救急検査技師指定講習会で学べます.日本臨床救急医学会では認定救急検査技師による発表演題数は着実に増加しており,意見交換会にて全国の認定救急検査技師の積極的な交流が行われています. 認定救急検査技師の資格取得は救急医療を知るきっかけであり,取得を目指し学び始めること,学んだことを救急医療現場で活かすこと,取得後はさらに経験や知識を積み重ね,チームの中で救急検査の専門家として必要な人間になることが大切です.救急医療を一緒に学んでみませんか,興味と勇気を持って一歩を踏み出してみませんか・・・. 【引用文献】 1)総務省消防庁 平成29年版 救急救助の現況 (URL)http://www.fdma.go.jp/common/img/h1_kyukyukyujo_genkyo.jpg 2)彩の国 埼玉県HP 第7次埼玉県地域保健医療計画 (URL)http://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/iryou-keikaku/documents/keikaku_7th_zenbun.pdf 3)福田篤久・竹下仁・櫛引健一他: 救急認定検査技師制度の設立に向けて 日本臨床救急医学会雑誌,14(1):81〜83,2011. 4)日臨技認定センター資格情報 認定救急検査技師 (URL)http://www.jamt.or.jp/studysession/center/system08/ 林 恭子…(三郷中央総合病院) “いなくても困らない臨床検査技師”から“いなくては困る臨床検査技師”に….

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