埼臨技会誌 Vol
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【はじめに】近年,臨床検査微生物学分野に導入されたMALDI-TOF MS (マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計)は,同定検査において臨床に応用され有用性が報告されている.従来法に比べ,操作が簡便で,迅速性に優れた方法である.当院では2016年1月より質量分析装置MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社)を導入した.今回,同定検査における試薬コストと菌名一致率について従来法との比較および自施設の導入効果について検証したので報告する.【対象および方法】①同定検査における試薬コスト: MALDI Biotyper導入前後1年間の比較を行った.②菌名一致率:対象は2016年4月〜2017年3月の2,044件で,MALDI Biotyper とMicroScan WalkAway 96 Plus(ベックマン・コールター株式会社)とで比較を行った.【結果】①同定検査における試薬コストは,質量分析装置導入後,従来法より年間約48%の削減となった.②菌名全体一致率は97.6%であった.内訳は,Staphylococcus属96.1%,Enterococcus属99.5%,ブドウ糖発酵菌群98.9%,【はじめに】血液培養検査は菌血症診断に重要な検査であり、起炎菌を迅速に同定し報告することは早期診断の一助となる。当院での質量分析装置(Bruker社)の運用に際し、血液培養陽性ボトルからの直接同定に関して比較検討を行ったので報告する。【方法】2018年6月から2018年7月の間に血液培養陽性となった24検体24株を対象とした。前処理キットにはMALDI Sepsityper kit(以下Sepsityper法:ブルカー・ダルトニクス)、rapid BACproⅡ(以下rapid法:ニットーボーメディカル)の2種類を、前処理キットを用いない方法として名古屋第二赤十字病院の直接法(以下直接法)を用いた。評価は質量分析装置スコア1.70以上かつ従来法の同定結果(Walk Away:コールター社)と同一の場合を一致とし、スコアが1.69以下または従来法の同定結果と異なる場合を不一致とした。【結果】一致と判定された24株中、Sepsityper法は14株(57.8%)、rapid法は20株(84.6%)、直接法は10株(28.4%)であった。菌の内訳は右の表を参照。ブドウ糖非発酵菌群94.0%であった.【考察】MALDI-TOF MSは,1件当たりのランニングコストが数十円と安価となった.操作は,専用プレートに塗布後,約10分で菌種の同定が可能であり,従来よりも約24時間早い結果報告が可能となった.以上のことから,当機器によるコスト削減および迅速化の効果が確認された.問題点としては,遺伝子学的に相同性が近い菌種の鑑別が不可能な場合があり,従来法などで確認が必要となっていることである.【まとめ】MALDI-TOF MSの導入は,技師間差の影響が少なく迅速で正確な結果報告へとつながった.このため,臨床側でも早期に適切な抗菌薬投与が可能となり,入院患者の平均在院日数の短縮が見込まれる.また,2018年より入院患者に対して,質量分析装置を用いて同定検査を行った場合は,質量分析装置加算として40点が加算されることとなった.当院にとって,経済的に貢献できる適切な機器と確認された.【まとめ】前処理キットの同定能はSepsityper法と比較してrapid法が良好であった。またEnterobacteriaceae、Enterococcus sp.の場合は前処理キットなしであっても同定成績が良好であった。今後、さらに症例数を増やすとともに、血液培養液中の菌量と直接同定法の感度についても報告する。74質量分析装置(MALDI-TOF-MS)による血液培養陽性ボトル直接同定前処理の比較検討当院におけるMALDI-TOF MS導入効果と従来法との比較◎保坂 樹里1)、永野 栄子1)、堀口 祐希1)、安西 菜摘1)、島村 明花1)、矢澤 淳子1)、中島 あつ子1)、春木 宏介1)◎保坂 樹里1)、永野 栄子1)、堀口 祐希1)、安西 菜摘1)、島村 明花1)、矢澤 淳子1)、中島 あつ子1)、春木 宏介1)獨協医科大学埼玉医療センター1)獨協医科大学埼玉医療センター1)◎多並 慎弥1)、毛利 光希1)、伊村 浩良1)、遠藤 法男1)◎多並 慎弥1)、毛利 光希1)、伊村 浩良1)、遠藤 法男1)埼玉県立小児医療センター1)埼玉県立小児医療センター1)連絡先:048-965-1111 内線 3217埼玉県立小児医療センター 細菌検査室048-601-2200 内線2507当院におけるMALDI-TOF MS導入効果と従来法との比較血液培養陽性ボトル直接同定前処理の比較検討質量分析装置(MALDI-TOF-MS)によるEntryNo. 59EntryNo. 76微-10(第4会場 13:15~13:52)微-11(第4会場 13:15~13:52)

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