埼臨技会誌 Vol
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88強塩基性細胞質に空胞をみとめたMEF2D-BCL9融合遺伝子をもつ急性リンパ性白血病の一例【はじめに】近年次世代シークエンスの発展により白血病の分子病態の解明の進歩はめざましく小児の難治性白血病において新たなMEF2D-BCL9融合遺伝子が発見された。この白血病の特徴は思春期発症、B細胞性急性リンパ性白血病ALL、細胞内に多くの空胞を持つ特異な形態と報告されている。若年成人発症で、末梢血の検鏡で細胞質の塩基性が強く空胞を持つ白血病細胞を確認し、RT-PCRでMEF2D-BCL9融合遺伝子を検出したので報告する。【症例】30歳代男性、頭痛、心窩部不快、発熱、眼球黄染のため近医を受診した。肝機能障害を指摘され消化器内科に入院したが、血液検査にて白血球数増加、芽球の出現を指摘され当院に紹介となった。【検査結果】末梢血液検査:WBC 38290/μL、RBC 457万/μL、Hb 12.7g/dL、Hct 38.6%、PLT 9.6万/μL、生化学検査:T-Bil 1.5mg/dl、ALP 1572IU/L、LDH 1389IU/L、GPT 62IU/L、CRE 1.03mg/dl、UA 10.9mg/dl、CRP 5.1mg/dl、染色体検査:46,XYであった。末梢血での表面マーカー検査はCD10、CD19、CD20陽性、CD13、CD33、CD117陰性であ【背景】急性前骨髄球性白血病(APL)は,FAB分類ではM3,WHO分類では染色体異常t(15;17)(q22;q12)PML/RARA を伴う急性前骨髄球性白血病と分類されている.骨髄像や末梢血液像では前骨髄球様の核の変形が強い細胞を多数認め,ファゴット細胞はほとんどの症例で認められる.末梢血白血球数は減少している例が多い.免疫学的検査ではCD33(+), HLA-DR(-),CD11a(-),CD11(-),CD18(-)であり,CD13の発現は様々である.一部の症例ではvariant型(M3V)を示すものもあり,形態的に顆粒は見えないか微細で,通常型と同じように特徴的な核の変形を認める.今回,明瞭なファゴット細胞が見られずM3やM3Vとは異なる形態であったが,APLと診断された症例を経験したので報告する.【症例】70歳代女性.近医にて舌出血などがあり,当院歯科口腔外科へ紹介受診.来院時採血にてWBC9,500/µL, Hb9.6g/dL,PLT10,000/µL,Dダイマー55.7µg/mL.末梢血液像にて芽球様細胞78%,MPO陽性芽球3%以上,核は変形しており分化傾向であった.翌日,血液内科に転科となり骨髄穿刺施行.MPO染色3%以上陽性よりAMLの診断.芽球様細胞はやった。骨髄はdry tapであったため骨髄生検が行われバーキットリンパ腫の所見はなくPOD陰性芽球が占めていた。当院で行った視算検査では、末梢血中に小~中型、細胞質は強塩基性で高N/C比、核不整の細胞が見られ、それら細胞の一部には空胞が認められた。【まとめ】MEF2D-BCL9融合遺伝子を持つALLでは、治療の鍵となる副腎皮質ステロイドが効きにくく難治性のため、今後診断方法を確立していく必要があると考えられる。末梢血、骨髄鏡検において、細胞質の塩基性が強く空胞を認めるB細胞性ALLを見たときは、成人例であっても、本症例を念頭に置き報告し症例を集積していく必要があると考えた。連絡先 048-722-1111 (内線4120)や粗大なアズール顆粒を多数認めるもファゴット細胞は認められず,APLとしては非典型例であったがATRAを投与開始した.その後,細胞表面マーカーでCD13(+),CD33(+), HLA-DR(-),染色体検査でt(15;17)(q22;q12)検出,FISH法にてPML/RARA融合遺伝子98%陽性であり,APLの確定診断となった.【考察・まとめ】明瞭なファゴット細胞が認められず,M3Vの様な顆粒が微細な形態ではない症例であったが,末梢血液像にて前骨髄球様の細胞や,やや粗大なアズール顆粒,核の分化傾向を示す細胞が観察できたため,即座に医師に伝えることができた.臨床症状及び検査結果,臨床検査技師(技師)の報告を踏まえ医師は早期のATRA療法開始に踏み切った.これは日々の医師と技師の意見交換が活発に行われていた結果と考える.今回は特徴的な細胞が見られず細胞判定に苦慮したが,今後はそのような可能性があることを踏まえ,さらに注意深く細胞形態を観察する必要がある.また,医師と技師が良好な関係を築いていく事も,迅速な治療へと繋がると考えられる.       連絡先048-773-1111(内線2414)非典型的な形態を認めた急性前骨髄球性白血病(APL)の一症例急性前骨髄球性白血病(APL)の一症例◎熊倉 永莉香1)、蔵光 寛行1)、長崎 広美1)、保坂 利江1)、小山 真弘1)、岩田 敏弘1)◎熊倉 永莉香1)、蔵光 寛行1)、長崎 広美1)、保坂 利江1)、小山 真弘1)、岩田 敏弘1)埼玉県立がんセンター1)埼玉県立がんセンター1)◎伊東 麗1)、細田 未来1)、武笠 沙妃1)、秋山 沙織1)、青木 早紀1)、波多野 佳彦1)、菊池 裕子1)◎伊東 麗1)、細田 未来1)、武笠 沙妃1)、秋山 沙織1)、青木 早紀1)、波多野 佳彦1)、菊池 裕子1)医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院1)医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院1)EntryNo. 40EntryNo. 54もつ急性リンパ性白血病の一例非典型的な形態を認めた血-1(第6会場 9:30~9:58)強塩基性細胞質に空胞をみとめたMEF2D-BCL9融合遺伝子を血-2(第6会場 9:30~9:58)

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