生涯教育レポート 5
      
        



     日 時 : 2025年0221   1900分〜2030

     会 場 : ソニックシティビル601号室         点数:専門教科−20点


     主 題 : 微生物分野における質量分析機について




     講 師 :

  講 演 1: MALDIの基礎と微生物学的検査への応用
   講 師 高橋 敏宏(株式会社島津製作所)

  講 演 2: 当院での運用方法について
   講 師 2: 伊吹 早紀
         (地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立小児医療センター)

  講 演 3: 質量分析機が出会わせてくれた2症例
   講 師3:小棚 雅寛(埼玉医科大学病院)


      





    参加人数 : 30名


     出席した研究班班員 :小棚雅寛、酒井利育、今井芙美、
             伊波嵩之、渡辺駿介、大塚聖也、伊吹早紀


    

    《研修内容の概要・感想など》

 

今回は「微生物分野における質量分析機について」をテーマに研修会を開催した。
 講演1はMALDIの基礎と微生物学的検査への応用についての内容であった。MALDIMatrix Assisted Laser Desorption Ionizationの略で、質量分析のつの手法である。イオン化させた試料の分子1個あたりの分子量を測定することで、分子構造の解析を行っている。質量分析の活躍の場は医薬品や食品など様々であるが、この特徴を利用して微生物の同定も可能としている。最近ではプロテオタイピングという細菌の種を同定するだけでなく、さらに細かい血清型や亜種などの株レベルの識別が可能となる手法がある。例として、「大腸菌」と同定するだけでなく、「大腸菌O157」と血清型の特定が可能となると解説があった。現在は研究段階であるが、プロテオタイピングは微生物同定の高度な利用法として期待を寄せられている。
 講演2は検査業務での運用についての内容であった。質量分析機の利点として、細菌同定の迅速性(タイムパフォーマンス:タイパ)、分離したコロニーがコロニーあれば測定可能、様々な菌の同定、血液培養陽性のボトル内容液からの直接同定、ランニングコストが安価など挙げられる。伊吹氏は特にタイパに優れている点を推していた。伊吹氏の施設では質量分析機とスクリーニング培地を組み合わせ、耐性菌の疑いがある菌を報告している。また、血液培養検体から直接同定可能である特徴を利用し、髄液や関節液などの無菌的な検体を血液培養ボトルに入れ、陽性となったボトルより直接同定を実施している。このような運用をすることでより迅速な抗菌薬適正使用や院内感染対策に貢献しているとのことであった。
 講演3では質量分析機が出会わせてくれた2症例についての内容であった。そのうちの1つは血液培養よりDysgonomonas capnocytophagoidesが検出された症例であった。質量分析機で本菌と同定され、薬剤感受性検査ではメタロβ-ラクタマーゼの産生が示唆された。本菌は広範囲β-ラクタム系、アミノグリコシド系、マクロライド系、フルオロキノロン系など多くの薬剤に耐性を示すとの報告がある。質量分析での同定の他に遺伝子学的解析を行い、β-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すClassB MBL遺伝子を保有していることを確認した。質量分析機はあらゆる菌種を同定することが可能であり、初めて見る菌も多い。小棚氏は初めて出会った菌は結果を鵜呑みにするのではなく、精査して報告することが必要であると述べていた。
 従来では細菌が保有する酵素や糖分解能などの生化学的性状を確認することで同定をしているが、報告までに数日必要となる。質量分析による同定はタイパが良く、迅速な診断や治療の補助となる。また、報告可能な菌名が増えている。質量分析機は我々がまだ知らない菌たちと出会わせてくれる可能性を秘めている。

 

 

      

                                文責:大塚聖也

 



                生涯教育レポート 履歴 TOPへ           微生物 TOPへ