2017年5月

平成 29 年 5 月 19 日 (金)19 時 00 分 ~ 21 時 00 分
浦和コミニュティーセンター 第15集会室  専門― 20 点

データから学ぶ尿検査「症例を読む」             
講 師 : 小関 紀之(獨協医科大学越谷病院)
講 師 : 波木井 裕之(埼玉医科大学総合医療センター)
講 師 : 藤村 和夫 (埼玉県済生会川口総合病院)          
参加人数: 会員  (申請中  名含) 名  賛助会員   名 非会員   名

 研修内容の概要・感想など
5月の研修会は久しぶりに一般検査研究班単独で行われた症例検討会であった。
症例1は原発性マクログロブリン血症と寒冷凝集素症の合併であった。尿沈渣上、褐色の顆粒としてヘモジデリン顆粒がみとめられ、ヘモグロビン尿が考えられた。免疫電気泳動でIgM-κ型M蛋白の診断であり、M蛋白はクリオグロブリンの性質をもつことがあり、寒冷凝集素症の合併により、自己免疫性溶血性貧血を示していた。今回は多発性骨髄腫と原発性マクログロブリン血症の病態の違いと尿沈渣検査の段階でヘモジデリン顆粒に気付くことが重要と思われた。
症例2は多発性嚢胞腎の症例であった。尿沈渣上、膜部凝集状脱ヘモグロビン赤血球とヘマトイジン結晶の出現がみられ、造影CT検査の結果、多発性嚢胞腎で嚢胞内出血の診断であった。膜部凝集状脱ヘモグロビン赤血球は前立腺生検後の患者尿中にも出現するが、出血原因を推定するうえで、赤血球形態情報は重要と思われた。
 症例3はファブリー病の症例であった。尿沈渣でマルベリー小体、マルベリー細胞がみられた。尿定性検査で蛋白(±)、円柱(-)にもかかわらず脂肪球、卵円形脂肪体のような光沢のあるものが出現していること、脂肪球とは異なりいびつな成分もあることに注意することと患者情報が疾患推定にとても重要と思われた。
症例4はIgA腎症によるネフローゼ症候群であった。尿沈渣上、糸球体型赤血球を背景に多種の円柱と脂肪円柱、卵円形脂肪体の出現がみられた。ネフローゼ症候群診断基準にあてはまり、腎生検の結果、メサンギウム細胞の増殖と蛍光抗体法でIgA陽性を示していた。IgA腎症単独では多彩な円柱をみることは少ないが、ネフローゼ症候群を呈したため、高蛋白尿と種々の円柱の出現がみられていた。
 症例5はANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎)による急速進行性腎炎症候群であった。血清クレアチニンの急速な変化と潜血反応、蛋白定性が陽性を示し、尿沈渣で糸球体型赤血球を背景に多種の円柱がみられた。症候診断、蛍光抗体法所見とMPO-ANCA陽性によって確定診断が行われた。症例4と5は尿沈渣で糸球体型赤血球と多種の円柱がみられていたが、2つの鑑別としてはネフローゼ症候群の症例に出現していた卵円形脂肪体が診断の参考になると考えられた。
 技師は検査結果を正確に早く出さなければいけないこともあり、疾患や病態に意識がいかないこともある。全ての患者が教科書的な典型的なデータを示す訳ではなく、また稀少例はこの先経験しない可能性もあるため、症例検討などで実際の患者データを読み、疾患や病態と結び付ける機会は今後も重要ではないかと感じた。
提出日 平成 29 年 7 月 10 日                  文責: 川音 勝江  

2017年08月20日