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2024/2/21 甲状腺疾患の検査について

実施日時:2024年2月21日    19時00分~20時30分
会 場 :ソニックシティビル 905会議室  教科・点数:専門教科-20点
主 題 :甲状腺疾患の検査について
講 師 :山本 晃司(埼玉医科大学 保健医療学部臨床検査学科)
    渡邊 剛(埼玉医科大学総合医療センター 中央検査部)
協 賛 :なし
参加人数:会員 12名 賛助会員 1名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山恵 深田愛 森圭介

研修内容の概要・感想など
 今回の研修会は、甲状腺疾患の検査について主にバセドウ病と甲状腺癌にスポットをあてた内容であった。
甲状腺は甲状軟骨の下に位置する蝶のような形をした内分泌器官である。主に血液中のヨウ素を取り込み甲状腺ホルモン(T3、T4)の貯蔵・合成に関与する。甲状腺ホルモンは代謝の調整に関与し、脈拍や体温、自律神経の働きを調整する。その調節は下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により行われる。甲状腺ホルモン過剰分泌の際にはネガティブフィードバックにより調節される。
甲状腺疾患は機能異常と形態異常に分けて考えられる。機能異常ではホルモン過剰(甲状腺中毒症)として甲状腺機能亢進症と破壊性甲状腺炎がある。甲状腺機能亢進症ではバセドウ病、機能性結節が該当し、破壊性甲状腺炎では亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎が該当する。ホルモン不足(甲状腺機能低下症)では橋本病が該当するが罹患患者の大部分において甲状腺ホルモンは正常に保たれている。形態異常は腫れとしこりに分けられる。
甲状腺疾患の検査として主に生化学検査、血液検査を行いホルモン値(FT4、FT3、TSH)や抗体価(TRAb、TgAb、TPOAb)、生理機能検査(超音波検査など)を行う。詳細な検査フローおよび検査所見については甲状腺疾患診断ガイドライン(一般社団法人 日本甲状腺学会)を参照されたい。
バセドウ病はTSH受容体に対する抗体が産生されることで起こる自己免疫疾患のひとつであり、その発生機序は遺伝因子(HLA、CTLA-4、TSH受容体など)と環境因子(感染、ストレス、食事、老化など)による免疫寛容の破綻から引き起こされる。主な症状として甲状腺の腫れ(びまん性甲状腺腫大)や頻脈、眼球突出などがある。主な検査として甲状腺機能検査(甲状腺ホルモンおよびTSH)、抗甲状腺受容体抗体検査(抗TRAb、抗TSAb)、シンチグラフィ、超音波検査、心電図検査がある。加えて講演ではバセドウ病の診断や橋本病について、T3優位型バセドウ病症例の紹介があった。
甲状腺癌の罹患率はすべての癌の1%程度であり、発症率は増加傾向である。また男女比は1:3と女性に多く、30歳以降から急増し70歳前後が発症のピークである。
甲状腺がんの組織型分類と割合は乳頭がん(約90%)、濾胞がん(約5%)、低分化がん(1%未満)、髄様がん(約2%)、未分化がん(約2%)である。乳頭がんと濾胞がんは比較的予後は良好なことが多いが、低分化がん、髄様がんおよび未分化がんは予後が悪く特に未分化がんは1年生存率が5~20%以下とする報告が多い。
甲状腺癌の検査では細胞診検査、超音波検査、シンチグラフィが主であり、甲状腺ホルモンなどの血液検査は正常なパターンが多く判別には向かない。しかし、講演で紹介された乳頭がん症例ではサイログロブリン値の上昇と術後経過が示され、術後の評価には適しているとの解説があった。併せてホルモン値も観察することが重要である。
今回の研修会は甲状腺の基礎から疾患別の症例提示まで幅広い解説があった。日常業務に活かせるよう参加者の皆様が自施設に還元いただくことを望む。

2024/1/18 B型肝炎について B型肝炎の基礎と最新の知見

実施日時:2024年1月18日    19時00分~20時30分
会 場 :ソニックシティビル 905会議室  教科・点数:基礎教科-20点
主 題 :B型肝炎について B型肝炎の基礎と最新の知見
講 師 :高橋 潤(H.U.フロンティア株式会社 カスタマーサポート部テクニカルサポート課)
協 賛 :なし
参加人数:会員 18名 賛助会員 3名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 大阪圭司 飯山恵 深田愛 森圭介

研修内容の概要・感想など
 今回の研修会は、B型肝炎ウイルス(以下、HBV)の国内患者数などの基礎知識を中心に、B型肝炎治療ガイドライン最新版における追記情報の詳説なども合した研修内容であった。
 日本国内における肝炎患者数は300万人弱と推計されているが、そのうち感染に気付かないまま生活をしている人は78万人、感染を知りながら治療を続けていない人は53万人以上とされる。年間新規感染者数については約1万人と推定され、若年層の感染者も存在している。若年層の感染経路は血液や体液を介した水平感染が主であり、母子感染対策が取られている現在では垂直感染はほとんど発生していない。HBVの暴露1回あたりの感染リスクは非常に高く、ヒト免疫不全ウイルスの約100倍、C型肝炎ウイルスの約20倍である。B型肝炎の診断のための検査項目としては、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体やHBV-DNAなどが挙げられる。
 また、HBVの再活性化の機序と原因となり得る薬剤についても詳細な説明があった。HBV再活性化はHBVキャリアや既往感染者であれば起こり得、再活性化した場合には劇症化する症例も多い。劇症化した場合の死亡率は70%にも上るため、HBV再活性化は問題視されている。HBV再活性化の注意喚起のある薬剤は、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド薬、抗腫瘍薬、抗リウマチ薬や抗ウイルス薬と多岐にわたる。HBV再活性化のリスク管理は、多種の疾患・診療科が関係してくるため、施設全体で取り組むことが重要となってくる。
 最新の知見として、近年開発された高感度HBコア関連抗原定量検査についての詳説があった。HBコア関連抗原は、B型肝炎治療ガイドライン第4版で治療中の発がんリスクの指標となり得ると追記されたB型肝炎ウイルスマーカーであり、高感度HBコア関連抗原定量検査はHBV再活性化の早期診断や治療薬の効果判定の指標として有用性が認められている。また、HBV-DNA定量法と比して迅速に測定可能なだけでなく同等程度の検出感度であることから、DNA検査の代替になるとも考えられている検査法である。
 HBVによるウイルス性肝炎は感染症法の5類感染症に分類されており、国が発生状況を把握する必要があると判断した感染症である。今回の研修会はB型肝炎の基礎知識を学びなおすことで、国がB型肝炎を問題視する理由を再確認する良い機会となった。

2023/11/24 アレルギーについて ~アレルギー疾患とアレルギー検査について~

実施日時:2023年11月24日    19時00分~20時00分
会 場 :ソニックシティビル 905会議室  教科・点数:基礎教科-20点
主 題 :アレルギーについて ~アレルギー疾患とアレルギー検査について~
講 師 :大井 雅宏(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティク株式会社)
協 賛 :なし
参加人数:会員  15名 賛助会員 0名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 飯山恵 森圭介 深田愛

研修内容の概要・感想など
 今回の研修会は「アレルギーについて 〜アレルギー疾患とアレルギー検査について〜」というテーマで大井氏より講演が行われた。
 アレルギーとは、生体防御機構を担う免疫反応がある特定の異物に対して過剰に反応することで体に症状が引き起こされることを指し、Ⅰ型~Ⅴ型に分類される。、今回の研修会ではⅠ型アレルギーの話を中心として講演内容であった。
Ⅰ型アレルギーは即時性アレルギーとも呼ばれ、作用因子として主に免疫グロブリンのIgEが関与する。近年、Ⅰ型アレルギー疾患は増加傾向にあり、国民の2人に1人が何らかのアレルギー疾患があり、その割合は大人よりも子供に多く、ほとんどが小児期に発症するという調査がある。また、Ⅰ型アレルギー疾患の発症には遺伝的要因と環境要因が関与し、特に環境因子は都市化が進む地域においてはその影響が強いとも言われている。
食物アレルギーの診断は、問診でアレルゲンを推定し、特異的IgE検査を検査する。だが、特異的IgE検査が陽性であってもそれ単独では食物アレルギーの原因とはいえないという認識が重要であり、皮膚プリックテストや食物経口負荷試験等を行うことで確定診断となる。誘発された症状が疑わしい場合は食物経口負荷試験で確定診断となる。
 他にも、アレルギーマーチやアレルゲンコンポーネント、食物依存性運動誘発アレルギー、口腔アレルギー症候群、稀なアレルギー疾患として水アレルギーやダニアレルギーなどの説明があった。
 日本全国で特異的IgE検査を実施している施設は8割が検査センターであるとのことだった。今回の研修会に参加された方で特異的IgE検査を実施している参加者はいなかったことから、ほとんどの施設で外部委託をしていることがわかった。アレルギー疾患はここ数年で患者が急増し日本人の2人に1人は何かしらのアレルギー疾患にかかっているといわれるほどとても身近な疾患である。今回の研修会はアレルギーについて今一度学びなおす良い機会であった。

2023/10/25 免疫学の基礎 ~生体防御機構をもう一度学びましょう~

実施日時:2023年10月25日    19時00分~20時00分
会 場 :大宮ソニックシティビル 905会議室  教科・点数:基礎教科-20点
主 題 :免疫学の基礎 ~生体防御機構をもう一度学びましょう~
講 師 :渡邊 剛(埼玉医科大学総合医療センター)
協 賛 :なし
参加人数:会員  16名 賛助会員 0名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山恵 森圭介 大坂圭司 深田愛

研修内容の概要・感想など
 今回は、「免疫学の基礎 〜生体防御機構をもう一度学びましょう〜」というテーマで、渡邊氏より講演が行われた。
 免疫血清検査において必要な免疫学的知識について、生体内で生じている免疫応答に沿った内容であった。我々の体の中にウイルスや細菌などの病原体が侵入した際には、自然免疫と獲得免疫と呼ばれる2つの生体防御機構が働き、病原体を排除している。自然免疫は、生まれながら備わっている免疫機構であり比較的速やかに作用し、その中心を担う免疫細胞は食細胞(好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞など)である。食細胞の細胞膜にはパターン認識受容体(PRR)が発現しており、食細胞は各病原体の特徴を認識し、貪食・殺菌などの過程を経て病原体を排除する。しかし、これらの機構で全ての病原体を排除出来るわけではない。毒性の強い細菌、細胞内寄生菌、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞については獲得免疫系の細胞性免疫により処理される。特に白血球の中でも主にリンパ球が作用する。抗原提示細胞がペプチド断片化した抗原をMHCクラスⅡ分子と共に提示し、それをCD4(陽性のヘルパーT細胞がT細胞受容体(TCR)により抗原刺激を受ける。細胞性免疫ではCD8陽性のキラーT細胞が活性化し、MHCクラスⅠ分子を認識して、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を特異的に攻撃する。また、液性免疫では、サイトカインに誘導されB細胞が形質細胞へと分化し、抗体を産生する。その抗体は、オプソニン作用や中和作用、補体の活性化に関与し抗原を排除する。
 我々は日常検査においては、感染症や自己免疫性疾患などの検査では抗体の有無や抗体価を測定することも多いが、生体内の免疫応答を経て産出される抗体の量や上昇の仕方については個人差も多く、問題点も指摘されている。単に数値だけを見ていると臨床症状と乖離している症例を経験することもあり、抗体価の上昇と臨床症状を併せて結果を解釈することが大切である。また、細胞性免疫や液性免疫の特徴を把握することは、免疫血清検査や細胞機能検査の意義を理解するために重要である。
 今回の研修会で得た免疫学的知識は検査データを解釈する際に重要であり、今後の業務に是非、活用していきたい。

2023/9/22 免疫測定法の原理と特徴 ―異常反応例を交えて―

実施日時:2023年9月22日 18時30分~19時30分
会 場 :Web開催  教科・点数:基礎教科-20点
主 題 :免疫測定法の原理と特徴 ―異常反応例を交えて―
講 師 :岡倉 勇太(株式会社TCL 戸田中央臨床検査研究所)
協 賛 :なし
参加人数:会員 122名 賛助会員 0名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山恵 森圭介 大坂圭司

研修内容の概要・感想など
 今回の内容は、臨床の場で使われている代表的な免疫測定法、異常反応例についての解説であった。
 免疫測定法は抗原抗体反応を原理として広く使われている。その特徴として生化学的定量分析に比べ、高い特異性、幅広い測定レンジを有している。また、分析装置および試薬の開発により短時間で測定結果を得られるようになったことから診療支援に貢献している。しかし、免疫反応を原理としているため、試薬の長期的な安定性は得られず、非特異的な反応に遭遇する場合もある。またタイムコースなど可視的な反応の確認が難しいという欠点があげられる。
 イムノアッセイの要素は反応様式、B/F分離、標識物質の3つに分けられる。測定法の違いはこの要素の組み合わせの違いとも言える。
 競合法では一定量の抗体に対して血清中の目的物質と一定量の標識抗原が競合的に反応する。目的物質が低分子である場合に多く用いられる方法である。だが、測定原理上、抗原と抗体の比率に左右されるため、高感度化と測定範囲の広さを両立させることが難しい。
 サンドイッチ法は過剰量の抗体と過剰量の標識抗体で検体中の目標物質を挟む方法である。2つの抗体は目標物質に結合する場所が異なるものを使用している。抗体を多く使えるため高感度化、測定範囲を広げることが容易である。その反面、低分子抗原の測定は難しい。
 Heterogeneous immunoassay(不均一法)はB/F分離する測定法の総称である。B/F分離は標識した抗原(または抗体)と抗体(または抗原)が結合したものと遊離しているものに分けることである。B/F分離を用いる測定原理として、EIA(酵素免疫測定法)、ELISA(酵素結合免疫測定法)、BLEIA(生物発光酵素免疫測定法)、CLIA(化学発光免疫測定法)、ECLIA(電気化学発光免疫測定法)が挙げられ、各測定法の解説があった。
 一方、Homogeneous immunoassay(均一法)はB/F分離せずシグナル強度を測定する方法である。操作は簡便で迅速性に優れるが、Heterogeneous immunoassayに比べ感度、安定性が劣る。測定法はEMIT法(多元酵素免疫測定法)、蛍光偏光免疫測定法(FPIA法)、LOCI法などがある。
 免疫凝集反応は細菌や赤血球(抗原)に対し特異的な抗体を混合させると、抗原は特異的に集合し肉眼・顕微鏡で観察可能な凝集塊を形成する。
 免疫比濁・比ろう法は血清中の特定成分に反応する抗体(抗原)を添加すると抗原(抗体)量に応じた免疫複合体が形成され、濁りを生じる。その濁度変化量を吸光度変化量として濃度に換算する測定法である。
 イムノクロマト法はサンドイッチ法を基盤としており、セルロース膜上を検体が試薬を溶解しながらゆっくりと流れる性質を応用している。非常に簡便で短時間での測定が可能であるが、目視判定のため技師間差による判定の不一致が起こりうる。
 測定法によって感度は異なり、高感度化が進むほどにコンタミネーションやエアロゾルの影響が大きくなるため、検体の取り扱いにはより注意が必要である。
 免疫測定法は欠点として交差反応、非特異反応の存在がある。異常反応の要因として次の4つが挙げられる。1.構造類似物質による交差反応、2.測定対象物質の多様性や不均一性によるもの、3.試薬の構成成分由来、4.検体中成分由来の異常反応。非特異反応の確認方法としては、他の測定方法での確認、遠心後の再測定、タイムコースの確認、希釈直線性などがあげられる。これらは非特異反応が起きているかどうかの確認であり、精査はメーカーに依頼することが多い。
 今回の研修は、測定法の違いによる特徴を見直すとても良いきっかけになった。測定原理によって異常反応も異なるため、自施設で使用している装置、測定試薬の理解は大切であると共有したい。

2023/7/14 腫瘍マーカー ―新規卵巣がんマーカー TFPI2を中心に―

実施日時:2023年 7月 14日    18時30分 ~ 19時30分
会 場 :Web開催  教科・点数:基礎教科-20点
主 題 :腫瘍マーカー ―新規卵巣がんマーカー TFPI2を中心に―
講 師 :浅越 綾(東ソー株式会社)
協 賛 :なし
参加人数:会員 190名 賛助会員 1名 非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山惠 森圭介 深田愛

研修内容の概要・感想など
 今回は、癌の国内動向と前立腺がん、膵臓がんおよび卵巣がんについて各腫瘍マーカーの選択やその特徴に注目した研修内容であった。
がんは遺伝や加齢、喫煙、飲酒など様々な要因によって発症する。日本人における死因で最も多いのは悪性新生物であり(厚生労働省2021年人口動態統計より)、その罹患数は年々増加しているが中でも男性では前立腺および膵臓がんが、女性では卵巣、子宮、乳房および膵臓がんが大きく増加している。
前立腺がんの症状は残尿感、尿漏れにはじまり、進行するにつれて血尿、排尿困難、骨の痛みなどを引き起こす。代表検査項目としてPSAがある。PSAは前立腺の上皮細胞に局在する短鎖状糖タンパク質であり、前立腺肥大症や前立腺炎、前立腺がんなどで細胞外へ漏出する。良性疾患か悪性疾患かの判別はTotal PSAの測定を基本とし、その他のマーカー(%fPSA、proPSA、phiなど)と総合的に判断すると高い特異度を得られる。
膵臓がんは症状として腰・背中の痛み、腹痛、腹部膨満感、食欲不振などを引き起こすが、がんが小さいうちは症状が現れにくく、早期発見が難しいとされる。膵臓がんマーカーとしてCA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEA、CA242などがあり、多くはフォローアップ、予後・治療効果の予測に有用とされ、これらの腫瘍マーカーは単一で用いるよりも組み合わせて用いることで高い特異度が得られる。例えば、CEA、CA19-9、CA242の膵臓がんに対する特異度はそれぞれ75%、43%、76%であるが、CEA+CA19-9+CA242を組み合わせることで特異度96%となり、確定診断により有用となる。
卵巣がんの症状は腹痛、頻尿、便秘から始まり、進行すると下腹部違和感、不正出血などを引き起こす。上皮性卵巣癌は4つの組織型(漿液性癌、類内膜癌、明細胞癌、粘液性癌)に大別される。さらに漿液性癌は高異型度漿液性癌と低異型度漿液性癌に分けられる。中でも明細胞癌は進行が比較的遅めではあるが、抗がん剤感受性が低く、欧米人と比べ日本人で罹患割合が高い。卵巣がんマーカーは、CA125、CA19-9、CA602、HE4などがある。産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020ではCA125を基本として他マーカーの中から組み合わせを考えることを推奨している。しかし、CA125を含め従来のマーカーは良性・悪性の鑑別においてCA125の補完が不十分(特に明細胞癌)である点や術前に組織型を鑑別する術がない点、良性腫瘍における偽陽性が多い点が課題としてある。この課題を解決するため、新卵巣がんマーカーTFPI2が注目されている。
TFPI2(組織因子経路インヒビター2)は分子量約30kDaの糖タンパク質であり、Kunitz Domain(KD1~3)を有するセリンプロテアーゼインヒビターである。胎盤で大量に発現し、周産期の重要因子と推察されている。他マーカーと比べ明細胞癌判別能に優れ、生理周期の影響を受けず、良性腫瘍ではほとんど上昇しない特徴がある。また、CA125など他マーカーと組み合わせることで悪性腫瘍検出率を8.9~12.2%上昇させる研究結果がある。そのため、CA125とTFPI2を組み合わせて評価することで、卵巣がん全体の検出感度が上昇し、卵巣腫瘍の分類(特に明細胞癌)が可能になることが期待される。ただし、TFPI2は妊娠時に高値となるため、妊婦検体の測定には適さない。
今回の研修は、腫瘍マーカー検査を見直す良い機会となった。免疫血清分野は技術進歩に伴い、臨床で有用な新規マーカーが多く開発されている。これらの情報を自施設でも有益に活用していきたい。

2023/4/19 令和4年度埼玉県・埼玉県医師会臨床検査精管理事業報告(血清) 免疫測定法のピットフォール

実施日時:2023年4月19日  18時30分~19時30分
会 場 : Web開催
主 題 : 令和4年度埼玉県・埼玉県医師会臨床検査精管理事業報告(血清)
     免疫測定法のピットフォール
講 師 : 岡倉 勇太(株式会社TLC 戸田中央臨床検査研究所)
     渡邊 剛(埼玉医科大学総合医療センター)
参加人数: 会員 82名  賛助会員 1名  非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山恵 大坂圭司 森圭介 深田愛

研修内容の概要・感想など
 今回は、はじめに令和4年度埼玉県・埼玉県医師会精度管理事業報告(血清)、次に免疫検査におけるピットフォールについて講演を行った。
 精度管理事業報告では、項目ごとに測定法別、機器・試薬別の集計報告があった。梅毒脂質抗体では、メディエース試薬において3施設乖離している報告値があった。原因は5倍希釈を行ったためである。メーカーからは測定結果が4.0R.U.以上である場合、プロゾーン現象の可能性を考慮し希釈することが推奨されている。プロゾーン現象の確認は通常、2倍、4倍と倍々希釈を行い、測定値がフラットになることを確認する必要がある。今回の試料では1倍(原液)と2倍希釈の測定値が変わらないためプロゾーン現象が起きていないと考える。そのため、報告値は1倍または2倍希釈が正しい。全体的に良好な結果であったものの、機器や測定法の記入間違いや未記入、未回答を多数認めた。試料開封時の参加項目の確認、自施設の装置・試薬の理解、および入力後の確認を望むとの指摘があった。
 免疫測定法のピットフォールでは、異常検査結果に遭遇した際の考え方から、各検査プロセスで考えられるピットフォールの要因と種類、対処方法まで幅広い講演内容であった。
ピットフォールとは翻訳すると「落とし穴」の意味であり、精度管理などが十分行われているにも関わらず前回値との著しい乖離、関連項目と挙動が合わない、臨床症状と合致しないなどの事例があり、それが本来求められる数値とは違うことを意味する。ピットフォールに気づかず結果報告をしてしまうと、測定結果の解釈や患者治療などに影響を及ぼす可能性があるため、ピットフォールを発見し分析することが重要である。
 検査前プロセスで見られるピットフォールとして、マイクロフィブリン、溶血、異物混入を原因とするものがある。マイクロフィブリンは、採取管の転倒混和、再検査時の再遠心分離が有効である。溶血は採血手技や検体保存に注意し、溶血が強い際は再採血を検討する。異物混入で考えられるものは唾液、皮膚片があり、唾液は特にCEA、CA19-9、SCCの偽高値を起こすので手袋やマスクは確実に着用する。
 検査中プロセスでは、プロゾーン現象や測定方法の違いなどが原因となる。プロゾーン現象とは、抗原抗体反応において抗原または抗体のどちらか一方が過剰であることが原因で反応が抑制される現象であり、検査結果の偽低値を引き起こす。測定機器のプロゾーンチェックで検出された検体などをマニュアル希釈することで検証する必要がある。また測定原理の違いによりCA19-9などの一部腫瘍マーカーは測定結果が乖離することがある。乖離の要因は多様であり、各測定法の特徴を理解することが重要である。
検体由来のものでは異好抗体やリウマトイド因子、M蛋白が要因となることもある。異好抗体が存在すると偽高値となるが、異好抗体と結合するIgGであるHAMAブロッカーの添加で要因を取り除くことができる。異常蛋白も偽高値を引き起こす可能性があるので、非特異反応の原因が異常蛋白と考えられた際は、PEG処理を行うことで除去する。
 検査結果に違和感を持った際は、各プロセスを振り返り生理的変動・薬剤投与・検体の保存状態などに問題はないかを確認する。また、精度管理の異常や機器のエラーなども調査をする。それぞれに問題がない場合は非特異反応などを疑う。自施設でこのような対応が難しい場合は、メーカーや日本臨床化学会ピットフォール研究専門委員会への依頼も有用である。日常検査の中で、常に正しい検査結果を報告していくために、これらの知識を活用していきたい。

2023/2/22 亜鉛の有用性

実施日時:2023年2月22日  18時30分~19時30分
会 場 : Web開催
主 題 : 亜鉛の有用性
講 師 : 中尾 友作(株式会社 シノテスト)
参加人数: 会員 132名  賛助会員 0名  非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 大坂圭司 飯山恵

研修内容の概要・感想など
 今回は微量元素の亜鉛をテーマに「亜鉛の有用性」について講演を行った。講演は亜鉛の基礎的な内容から始まり、実際の症例を交え、病態と血清亜鉛値の変動までの幅広い内容であった。
 亜鉛は必須微量元素の1つであり、生体内含有量は約2gと鉄に次いで多い。タンパク質の構造維持や酵素の補因子として働き、生理機能において重要な役割を担っている。亜鉛は食事から摂取され、そのうち30~40%が吸収される。主に肉類や魚介類に多く含まれ、牡蠣には100gあたり13.2mgと亜鉛の含有量が多い。血中ではアルブミンやα2マクログロブリンなどのタンパク質に結合し、肝臓から各種臓器に輸送される。生体内の分布は、筋肉が約60%、骨が約30%と大半を占める。
 近年、亜鉛欠乏症状を呈する患者の数が増加傾向にある。その要因は、摂取不足や吸収不足、排泄過多などが挙げられる。亜鉛欠乏症は診療指針2018より血清亜鉛の基準値が80~130μg/dLと定められており、60μg/dL未満を亜鉛欠乏症とする。血清亜鉛値の低下した状態が持続すると2週間以内に症状が出現する。症状は味覚障害、食欲不振、皮膚障害、成長発育障害など多様である。
 次に、血清亜鉛値の測定が治療に有効であった症例が紹介された。高齢者などに多い褥瘡では、亜鉛と同様に微量元素である鉄や銅の量とそれらの濃度バランスを整えることで、症状が改善した症例が示された。肝硬変の患者では、肝臓での代謝が阻害されることで解毒作用が障害される。そのため、血中アンモニア濃度が上昇し、肝性脳症を発症することがある。TCA回路のアンモニアを尿素に変換する反応では、亜鉛要求性酵素が関与しており、亜鉛を併用投与することで症状が改善した症例が示された。その他にも腎性貧血の患者に亜鉛を投与することでヘモグロビン濃度が回復した症例やアトピー性皮膚炎で亜鉛投与により症状が改善した症例が示された。
 亜鉛欠乏症には亜鉛の補充療法が治療に用いられており、定期的な血清亜鉛値をモニタリングすることが有効であると考えられる。血清亜鉛値は日内変動や検体保存条件の影響を受けるので、測定する際には考慮する必要がある。日常検査において血清亜鉛値を常に測定している施設は少ないと思われるが、亜鉛欠乏症を疑う症例においては、積極的に測定することが有効であると思われる。
 今回の講演は、近年増加傾向にある亜鉛欠乏症を見逃さないためにも臨床症状と血清亜鉛値の変動について見直す良い機会となった。

2023/1/20 フェリチンについて

実施日時: 2023年1月20日    18時30分  ~  19時30分
会 場 : Web開催
主 題 : フェリチンについて
講 師 : 土井 創(ニットーボーメディカル株式会社 学術部 東京学術グループ)
参加人数: 会員 165名  賛助会員 1名  非会員 0名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 大坂圭司 飯山恵

研修内容の概要・感想など
 今回の講義は、鉄の生体内代謝から鉄代謝に関するヘモグロビン・フェリチンの構造、フェリチンの臨床意義など多岐に及ぶ内容であった。
鉄はミネラルの一種で生体内に3~5g存在する。そのなかの70%は赤血球のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンに存在し、30%は肝臓や骨髄、筋肉などに貯蔵鉄として存在する。ヘモグロビンは赤血球内に存在し、鉄を含む赤い血色素である。全身の酸素運搬を担うタンパク質であり、約120日の寿命がくると脾臓等のマクロファージに貪食され、ヘモグロビンはヘムとグロビンに分解される。ヘムから分解される鉄はグロビンと同様に再利用されるが、過剰分は肝臓へ運ばれフェリチンに結合し貯蔵される。
フェリチンは24個のタンパク質サブユニットが集まって中空の構造を形成している。鉄イオンはフェリチン内では三価イオン状態に変換され、リン酸イオンおよび水酸化物イオンとともに小さな微結晶を形成する。殻の内部には約4500個の鉄イオンが収納でき、鉄を水溶性かつ非毒性に保つ。また、フェリチンはほとんどの組織の細胞質に存在するが、大部分は鉄運搬体として血漿中に分泌されている。血漿フェリチンの量は、肉体に蓄積されている鉄の総量の推計指標であり、鉄欠乏性貧血の診断材料となる。
フェエチン値が低下する疾患として鉄欠乏性貧血があるが、体内の鉄分が不足するとフェリチンとして貯蔵されている鉄が使用されるため、減少する順序はフェリチンが先行し、その後血清鉄量が減少、最後にはヘモグロビンが減少する。
また、血清フェリチン値は悪性腫瘍、肝障害、心筋梗塞、感染症、炎症などで貯蔵鉄量とは無関係に上昇する。その他の上昇疾患として輸血後鉄過剰症がある。これは再生不良性貧血や腎性貧血など頻回輸血を行っている場合に起こり、鉄は肝臓をはじめとする全身臓器に沈着する。沈着した鉄は過酸化水素と反応し水酸基ラジカルを産生し、これが細胞内脂質、タンパク、核酸を障害する。総赤血球輸血量20単位以上かつ血清フェリチン値500ng/mLの場合、輸血後鉄過剰症と診断される。
悪性腫瘍におけるフェリチン値上昇の機序は、腫瘍細胞の産生というよりも組織崩壊によるものが考えられている。血清フェリチン値は治癒手術群、非治癒手術群、末期群と癌の進行とともに有意に高値をとるため病期の把握に有用であり、血清フェリチン値の上昇が続くものは予後が悪いとされている。
フェリチンは近年ではメジャーな測定項目になっている。今回の講義は、フェリチンの臨床意義を再確認し、実際のルーチン業務に生かせる内容となっていた。

2022/12/15 高血圧マーカーについて

実施日時: 2022年12月15日    18時30分  ~  19時30分
会 場 : Web開催            
主 題 : 高血圧マーカーについて
講 師 : 村田 みさと(富士フイルム和光純薬株式会社)
参加人数: 会員 129名  
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 大坂圭司 飯山恵

研修内容の概要・感想など
 高血圧の推定患者数は約4300万人にのぼるが、そのうち治療を受けている人は約半数にとどまる。高血圧患者は脳心血管病、慢性腎臓病などの罹患リスクおよび死亡リスクが高くなる。さらに、喫煙と並び脳心血管病死亡者数へ最も大きく影響する要因となり、高血圧起因となる死亡者数は年間約10万人と推定される。
 高血圧は全高血圧の約90%を占める本態性高血圧と、10%ほどの二次性高血圧に分けられる。さらに二次性高血圧は腎実質性高血圧、腎血管性高血圧、内分泌性高血圧に分けられる。今回の講義は内分泌性高血圧に分類される原発性アルドステロン症・クッシング症候群に注目した内容であった。
 原発性アルドステロン症は副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。利尿薬、降圧薬でもコントロールが難しい治療抵抗性高血圧であり、本態性高血圧患者と比べ心血管合併症が3~5倍多く、早期診断と治療が重要となる。血清学的検査所見としては、過剰なアルドステロン分泌とフィードバックによるレニン産生の低下が本疾患の特徴である。本疾患の診断手順はスクリーニング、機能確認検査、病型・局在診断の流れで進める。スクリーニングは、早朝から午前中の採血で血漿アルドステロン濃度/活性型レニン濃度比が40以上かつ血漿アルドステロン濃度が60pg/mL以上を満たすことで暫定的に陽性となる。次に行う機能確認検査は、アルドステロンの分泌が自律的かつ過剰であることを確認するため、カプトプリル試験や生理食塩水負荷試験を行う。それらの結果を踏まえCTや副腎静脈サンプリング(AVS)にて病型・局在診断を行い、特発性アルドステロン症とアルドステロン産生腺腫に分類する。治療は特発性アルドステロン症(両側副腎過形成)の場合は薬物療法が、アルドステロン産生腺腫(片側性)の場合は手術が適応される。
 クッシング症候群は副腎腺腫、副腎過形成、下垂体腺腫などによりコルチゾールが過剰分泌される疾患である。身体的特徴として、満月様顔貌、中心性肥満、水牛様肩などがみられ、治療抵抗性高血圧を呈することがある。ACTHの関与の有無によりACTH依存性クッシング症候群とACTH非依存性クッシング症候群に分類される。クッシング症候群の診断アルゴリズムは多岐に渡り血中ACTHと血中コルチゾール、尿中遊離コルチゾールの複数回の測定により分類される。治療は手術療法による原発巣の摘出が第一選択であるが病状により放射線治療や薬物療法が優先されることもある。
 以上の内容の理解は十分必要となり、二次性高血圧とは知らないまま本態性高血圧として治療を受けている方が少なからずいると考えられているため、臨床側や患者に検査の重要性をアプローチする必要があると考える。

2022/11/11 血液暴露時の感染対策と関連検査

実施日時: 2022 年 11月 11日    18時 30分  ~  19時 30分
会 場 : Web開催                 
主 題 : 血液暴露時の感染対策と関連検査
講 師 : 寺田 茉衣子(アボットジャパン合同会社 医学統括・品質薬事本部)
参加人数: 会員 181名  
出席した研究班班員:山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 大坂圭司 飯山恵

研修内容の概要・感想など
 今回の講義は、医療従事者に日常起こりうる針刺し事故とその際に感染リスクの高い病原体の概要、暴露時の対応および治療方法を網羅した内容であった。
 血液は病原体を含んでいる可能性があるため、患者検体は病原体を持っているものとして扱う。感染経路は針刺し・粘膜暴露・傷口暴露などが考えられ、血液、その他の体液、組織、血液製剤の順で感染リスクが高い。今回は感染リスクの高い病原体として、HBV、HCV、HIVが挙げられた。
 HBVは、血液を介して感染し肝炎を発症させるDNAウィルスである。日本人の約1%が感染していると言われ、成人が感染した場合急性肝炎を発症し、まれに慢性化、劇症肝炎を発症することもある。HBVはワクチンで感染予防をすることができ、医療従事者はワクチン接種が必須である。血液検査では、ウィルスのゲノム、抗原を測定し、感染の有無を調べるとともに、感染後に産生される抗体を測定し、感染の経過を予測する。また、治療にはインターフェロン製剤と、HIVの抗ウィルス剤であった核酸アナログ製剤を用いる。しかし、一度感染すると治癒後も肝細胞にcccDNAが残り、免疫力低下での再燃が起こりうる。針刺し事故などで感染の恐れがあるときは、ガイドラインに沿って血液検査、抗HBs人免疫グロブリン(HBIG)やHBワクチンの投与などの対処を必要とする。
 HCVは、血液を介して感染し肝炎を発症させるRNAウィルスである。HBVより慢性化しやすく、肝硬変、肝細胞癌を発症することもある。検査はHCV抗体、HCVRNA定量検査を用い感染の有無や経過観察をする。HCVはワクチンが存在しないため予防ができないが、近年DAAと呼ばれる新しい抗ウィルス薬が開発され、旧来のものより高い有効性と安全性があるとして注目されている。
 HIVは、体液が傷口、粘膜から体内に入り感染しAIDS(後天性免疫不全症候群)を発症する可能性のあるレトロRNAウィルスである。体外へ出ると不活化するため感染力は低いが、性行為・母子垂直感染など血液を介して感染するウィルスである。検査は、スクリーニング検査としてHIVの抗原抗体検出が、早期発見の発見や予後を推測する目的としてRNA定量が用いられる。RNA定量は確認試験としても用いられるが、近年、ウェスタンブロット法ではなくイムノクロマト法を同時に行う方法が主流となりつつある。HIV暴露の恐れがあるときは、まず、PEP(暴露後予防内服)として抗HIV薬を使用する。感染の治療には、3~4種の抗HIV薬を組み合わせ内服する多剤併用療法を用いる。HIVに感染し、23種の合併症のうちいずれかを発症した状態をAIDSと呼ぶ。
 我々は日常の業務で多くの患者検体を用いる。今回の講義で、患者検体に対する感染対策意識の向上とともに、感染症の知識の補完を行うことができた。

2022/9/21 免疫学の基礎~生体防御機構をもう一度学びましょう~

実施日時: 2022 年 9月 21日    18時 30分  ~  19時 30分
会 場 : Web開催  
主 題 : 免疫学の基礎~生体防御機構をもう一度学びましょう~
講 師 : 渡邊 剛(埼玉医科大学総合医療センター)
参加人数: 会員 198名  
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 大坂圭司 飯山恵

研修内容の概要・感想など
 今回の内容は免疫学の基礎であり、免疫学の歴史にはじまり抗原・抗体・サイトカイン・補体など生体防御機構を網羅した講義であった。講義の冒頭に生体防御機構について全体像の解説があり、細菌やウィルスが体内に侵入してからどのように認識され排除されるかが視覚的に示された。
生体防御機構は、自己と非自己の区別から始まる。非自己に対しては、主に免疫担当細胞による異物(抗原)を排除するシステムが働く。
まず体内に侵入した抗原は、免疫担当細胞の好中球・マクロファージ・樹状細胞により捉えられる。特にマクロファージのToll様受容体は様々な抗原の病原体関連分子パターンを認識し、抗原は細胞内へ取り込まれ処理される。さらに、処理された抗原の情報はT細胞へ伝達され、その情報をもとにT細胞は抗体産生や免疫細胞を活性化するサイトカインを放出する。
サイトカインは様々な刺激によって免疫細胞などから産生されるタンパクであり、それに対する受容体に結合して細胞内のシグナル伝達を引き起こす物質である。サイトカインには主に白血球から産生されるインターロイキンや、ウィルスの増殖防止を司るインターフェロンなどがあり、様々な生理活性を有している。なお、体内には約800種のサイトカインが存在すると言われている。
抗体(免疫グロブリン)は5種類のタイプがあり、IgGはオプソニン作用、IgAは中和作用、IgMは補体活性化作用を主にもたらし、生体防御に貢献する。
また、抗体や貪食細胞の生体防御作用を補助する担い手として補体があり、その作用はオプソニン作用、溶菌作用、炎症反応、食細胞の炎症巣動員など多岐にわたる。補体の活性化経路には抗原抗体複合体から活性化する古典経路と、抗原の持つ糖鎖を生体内のマンノース結合レクチンが認識し活性化するレクチン経路がある。
 我々は免疫検査において、感染症や自己免疫性疾患などの検査では抗体価を測定することも多い。また、生体内の免疫応答を経て産出される抗体の量や上昇の仕方については個人差も多く、免疫検査には未だ課題が残されている。今回の講義は、免疫疾患の機序や免疫検査の特徴を再確認する良いきっかけとなった。

2022/7/21 HTLV-1感染症について

実施日時: 2022年7月21日 18時30分~19時30分
会 場 : Web開催  
主 題 : HTLV-1感染症について
講 師 : 福田 雅之助(H.U.フロンティア株式会社 営業統括本部)
参加人数: 会員 137名  
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 大坂圭司 飯山惠

研修内容の概要・感想など
 今回は、HTLV-1/2(ヒトT細胞白血病ウイルス1型/2型)について感染状況から検査・診断、治療まで近年のガイドラインに沿った講義内容であった。
感染状況では、日本国内において九州でのキャリア数が多く、関東・中部地域では増加傾向である。この増加傾向は人口の移動によるものが考えられる。また、日本国内のキャリアのほとんどが1型のキャリアである。
HTLV-1/2の感染経路は、母子感染(垂直感染)、性行為感染(水平感染)、輸血である。しかし、1986年から全国の血液センターで献血時にHTLV-1抗体のスクリーニング検査が実施されて以降、輸血による感染報告はない。そのため、現在では母子感染・性行為感染が主な感染経路となる。垂直感染では母乳による感染率が25%であるが、授乳の中止により感染率を約3%まで減少できる。
HTLV-1感染者の80%は血液中の感染細胞が少なく、さらにその94%は生涯無症状である。また、HTLV-1感染者の20%は感染細胞が多く、さらにその5%がATL(成人T細胞白血病・リンパ腫)を発症し、0.1%がHAM(HTLV-1関連脊髄疾患)を発症する。感染から各疾患の発症までは、ATLで約60年間、HAMで約40年間である。
妊婦におけるHTLV-1/2感染の診断指針では一次検査(CLEIA法またはPA法)、確認検査(WB法またはLIA法)があり、一次検査で陽性・確認検査で判定保留の場合はPCR法による確認を行う。確認検査での判定保留率は10~20%である。各検査フローにより母乳哺育を勧めるか人工乳を勧めるかが分かれるため検査結果の解釈とフローの理解が重要である。また、一次検査が陽性の場合、PCR法の実施や母乳哺育・人工乳のどちらを選択するかは各妊婦の意思や自主性を尊重し、一方的な介入は避ける。詳しくは「HTLV-1感染の診断指針」を参照されたい。
HTLV-1感染の治療は疾患により異なる。ATL/L(成人T細胞白血病/リンパ腫)の治療では一般に抗がん剤が用いられる。数種類の抗がん剤併用療法により30~70%の寛解が得られるが、多くは再発する。再発の場合は造血幹細胞移植の選択を勧める。また、ATLの病態は急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4病型に分類される。急性型およびリンパ腫型ATLは、aggressive ATLとも呼ばれ、最も予後の悪い造血器悪性腫瘍である。慢性型およびくすぶり型ATLはindolent ATLとも呼ばれ、その大多数が経過中に急性転化し、長期予後は不良である。HAMでは軽症から重症まで個人差が大きく、疾患活動性や重症度に応じて治療内容を選択し、できるだけ重症化を予防する治療方針を立てる必要がある。生命予後は一般的には良好であるが、歩行障害や排尿障害・難治性疼痛などの症状が残る場合が多い。
今回は、HTLV-1について各フローの再確認できた。自施設でも検査のフローだけでなく関連情報の共有を行い、検査室の技術・知識の向上に繋げたい。

2022/5/13 免疫測定法の原理と特徴、免疫測定におけるピットフォール

実施日時: 2022年 5月 13日  18時 30分 ~ 19時 45分
会 場 : Web開催 点数: 基礎 ― 20点
主 題 : 免疫測定法の原理と特徴、免疫測定におけるピットフォール
講 師 : 講演1:岡倉 勇太 講演2:渡邊 剛
参加人数: 会員 162名   
出席した研究班班員: 渡邊剛 山本晃司 岡倉勇太 飯山惠

研修内容の概要・感想など
 今回は、免疫測定法の原理と特徴についてと免疫検査におけるピットフォールについて測定法の違いによる結果の解釈から自施設で遭遇した症例までの臨床現場に応じた講義内容であった。
 免疫測定法では、抗原抗体反応を原理として広く用いられている。測定対象は、低分子から高分子化合物まで幅広く用いられ、また測定法は多様であり、その反応方法も様々である。特徴としては、生化学検査などの比色定量分析と比較すると、高感度でありホルモンや腫瘍マーカー・サイトカインなどの微量成分の測定に優れている一方、交差反応や非特異反応などは避けられない。免疫測定法の反応様式については代表的な測定法として競合法・サンドイッチ法があり、競合法は比較的小さな分子においても測定可能であるが、ある程度の抗原量がないとシグナルの変化を検出しづらい。一方、非競合法(サンドイッチ法)は検体中の目的対象物質を2つの抗体で挟み混む方法で、反応系において抗体過剰な状況で反応させているので、高感度化や測定範囲を広げることが容易であり、抗体と抗体で目的対象物質を挟むことから、ある程度の約1,000以上の分子サイズは必要で複数のエピトープが必須となる。抗原抗体反応後の洗浄作業をB/F分離と呼び、標識した抗原または抗体と結合したもの(B:Binding)と結合しなかったもの(F:Free)を選別し、抗原抗体複合体を可視化するために各種の標識物質を用いて検出を行っている。その発光強度により感度に相違があり、化学発光、蛍光、吸光(呈色)の順に高いと言われている。今回は自動分析装置で導入施設の多い、化学発光を検出に用いた方法(CLIA、ECLIA、CLEIA)についての説明が中心であった。
免疫測定法は多様であるため、測定値や判定が異なることがあり、自施設の装置や試薬の原理を理解することが大切となる。
 ピットフォールでは、測定までの3プロセス(検査前、検査、検査後)毎に分けて説明があった。検体前処理の段階では、NSE測定の際の溶血による偽高値、唾液の混入により腫瘍マーカー(CA19-9、CEA、SCC)の偽高値、ボルテックスミキサーにより物理的要因によるCYFRA測定値の偽低値、マイクロフィブリンの析出によるHBs抗原、HIVスクリーニング検査などの感染症マーカーの偽高値などが挙げられた。測定中においては、プロゾーン現象の要因や測定器・測定原理の変更に伴う測定値の乖離例としてCA19-9が紹介された。生理的要因としては検体の保存状況や薬剤の影響、検体由来のHAMAなどの異好抗体の影響などが考えられる。プロセス毎に分け1つずつ分析していくことが、原因究明には重要である。
 今回は、日常業務に活かせる総論的な免疫測定法やピットフォールの説明であり、自施設においても是非参考にしたい内容であった。

2022/4/14 令和3年度埼玉県医師会臨床検査精度管理事業報告と新しい妊娠高血圧腎症マーカー

実施日時: 2022年 4月 14日  18時 30分 ~ 19時 30分
会 場 : Web開催 点数: 基礎 ― 20点
主 題 : 令和3年度埼玉県医師会臨床検査精度管理事業報告と新しい妊娠高血圧腎症マーカー
講 師 : 講演1:藤代 政浩 講演2:木村 美鈴
参加人数: 会員 83名  賛助会員 2 名 
出席した研究班班員: 渡邊剛 山本晃司 冨田耕平 岡倉勇太 飯山惠

研修内容の概要・感想など
 今回は令和3年度埼玉県医師会臨床検査精度管理事業報告(免疫)と新しい妊娠高血圧腎症マーカーであるsFlt-1/PlGF比(可溶性fms様チロシンキナーゼ-1/胎盤増殖因子)の内容であった。
 令和3年度埼玉県医師会臨床検査精度管理事業報告では、免疫部門での各項目の結果と評価について藤代氏が講演された。今年は試料を変更し、測定項目にFT4が新規追加された。全体的には良好な結果であったが、昨年と同様に測定試薬・測定原理の入力間違えや誤回答が散見された。今年は入力間違えの施設は「評価なし」としたが来年からはD評価となるので各施設で結果を確認する際はより注意していただきたい。
 続いて、sFlt-1/PlGF比について木村氏が講演された。妊娠高血圧症(PE)は高血圧及び蛋白尿を伴う妊娠疾患であり、重篤・緊急を要する合併症の危険性が高く、また発症から増悪までの期間が極めて短いなど母胎・胎児へのリスクが高い疾患である。発症すると原則入院管理となり、治療はtermination(妊娠の中断)が基本となる。PEの予測は尿蛋白検査や血圧測定であるが、PEを特異的に予測する検査がsFlt-1/PlGF比である。これは胎盤形成に関わる血管新生因子PlGFおよびその阻害因子sFlt -1はPEの病態形成に関与していることが明らかになっていて、PEを発症する妊婦は、発症前に血清中のsFlt-1のPlGFに対する比率sFlt-1/PlGFが上昇することから、sFlt-1/PlG F比がPEの発症を予測する指標として注目されている。国際共同研究PROGNOSISにおいて、臨床的にPE発症のリスクが高いと考えられる妊婦を対象に発症予測性能を評価した結果、sFlt-1/ PlGF比38がカットオフ値として有用な的中率を持つことがヨーロッパならびにアジアで確認され、38以下はその後1週間でPE非発症(陰性的中率99.3%)、38を超えた場合には以後4週間以内のPE発症(陽性的中率36.7%)の予測補助となる可能性が示唆されている。これにより、医療比の削減、NICU入院、母胎の管理などが改善したデータも報告されている。
 sFlt-1/ PlGF比は未だ全国的には浸透度は低い検査項目だが、今回の研修会で得た知識は重要であり、今後の業務に是非活用していきたい。

2022/2/24 教科書通りにいかない甲状腺ホルモンの検査~データの見方について

実施日時: 2022年 2 月 24日  18時 30分 ~ 19 時 30分
会 場 : Web開催  点数: 基礎 ― 20点
主 題 : 「教科書通りにいかない甲状腺ホルモンの検査~データの見方について」       
講 師 : 川崎 芳正(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社 学術部)
参加人数: 会員143名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 田中亜紀 大坂圭司 岡倉 勇太 冨田耕平 末次遼太

研修内容の概要・感想など
 今回は内分泌領域の主要項目といえる甲状腺ホルモンのサイロキシンT4、トリヨーサイロニンT3および下垂体前葉ホルモンの甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する疾患、詳細な項目情報、治療から検査データの解釈に至るまでご講演いただいた。
 甲状腺は喉あたりにある蝶のような形をした臓器で、代謝の調節に必要となるホルモンを分泌する。代表的な疾患は甲状腺機能亢進によるバセドウ病、機能低下による橋本病が代表的である。この疾患の発症の四大きっかけは、「過労・ストレス・喫煙・妊娠出産」であることが知られている。バセドウ病ではさらに「花粉症」もきっかけとなる。発症頻度は10人から20人に1人の割合と多く、また性差があり閉経前の女性では男性の数十倍の頻度で発症する。バセドウ病および橋本病は自己免疫疾患であり、性腺ホルモンのエストラジオール(E2)の過剰な作用により自己免疫反応を起こし、女性に多く発症する。
甲状腺より分泌されるT4、T3はTSHが甲状腺濾胞細胞にあるTSHレセプターに作用することで生成される。生成されたT4の血中濃度上昇によりネガティブフィードバックを起こしTSHの分泌が調整されT4、T3、TSHの均衡が保たれている。しかしバセドウ病における甲状腺機能亢進の機序としては本来TSHが結合するTSHレセプターに対し、TSHレセプター抗体(TRAb)が作用しT4を過剰分泌させてしまう。その為、継時的な検査データの追跡が望ましいとのことであった。
甲状腺の検査データは投薬等によってデータが変動し、検査結果の解釈に悩むところである。
 しかし、今回の講習内容から甲状腺疾患の病態の把握、投薬による甲状腺データの状態変化、検査データの時系列を確認することで治療段階をある程度推測できることなど、様々な内容について再確認でき、今後の業務に生かせる内容となっていた。

2022/1/20 卵巣癌など婦人科領域で用いられる腫瘍マーカーについて

実施日時: 令和4年1月 20日   18時 30分 ~ 19時 30分
会 場 : Web開催 点数: 基礎 ― 20点
主 題 : 卵巣癌など婦人科領域で用いられる腫瘍マーカーについて      
講 師 : 津浦 正史(東ソー株式会社 バイオサイエンス事業部 マーケティング部)  
参加人数: 会員 121 名  賛助会員 0 名 非会員 0 名
出席した研究班班員:渡邊剛 山本晃司 田中亜紀 大坂圭司 岡倉勇太

研修内容の概要・感想など
 今回は卵巣癌など婦人科領域で用いられる腫瘍マーカーについて、卵巣癌診断の流れや主な卵巣腫瘍マーカーの種類から、新規卵巣腫瘍マーカーTFPI2(組織因子経路インヒビター2)の詳細までを津浦正史氏にご講演いただいた。
 卵巣癌は癌による死亡者数のうち3%ほどの割合を占める疾患で、患部が体深部に存在するため生検が困難であり、癌が発見される時には進行していることも多い。そのため、腫瘍マーカー、画像診断、腹水細胞診などの術前検査による病態の把握が重要である。卵巣癌の腫瘍マーカーとして最も用いられるものはCA125であり、CA125とその他の卵巣腫瘍マーカーを組み合わせて卵巣癌の診断補助を行う。しかし、CA125は卵巣癌全般について検出可能な反面、組織型特異性は無く、一部の組織型では感度が低いとされている。また、良性腫瘍や腹膜炎、月経周期の影響などで上昇してしまうという欠点もある。
TFPI2は、2021年4月より保険適用となった新規卵巣腫瘍マーカーである。特徴として、卵巣悪性腫瘍、特に卵巣明細胞癌で上昇し、子宮内膜症などの良性腫瘍による変動が小さく、CA125との相関が無い。卵巣明細胞癌は、近年若年層で増加傾向にあり、他の組織型と比較して化学療法が効きにくく、既存の卵巣腫瘍マーカーでは陰性例の多い疾患であるため、TFPI2が卵巣明細胞癌診断の新たな補助となることが期待されている。
TFPI2はCA125との相関が無いため、併用することの有用性も検証されている。例えば、CA125は卵巣癌Ⅰ期での陽性率が低い特徴があるので、TFPI2と併用することで卵巣癌早期の陽性率が大きく上昇する。TFPI2は卵巣明細胞癌で高値を示す、良性腫瘍による変動が小さいなどの特徴により、他の腫瘍マーカーと同等以上のCA125補完性能を有し、特にCA125陰性症例の検出に優れている。TFPI2は、これまで不可能だった術前の卵巣癌組織型(明細胞癌)推定を可能にし、CA125と組み合わせて評価することで、卵巣癌の診断および治療方針の選択に貢献できる新規卵巣腫瘍マーカーである。

2021/9/22 免疫学の基礎 〜生体防御機構をもう一度学びましょう〜

実施日時: 令和3年 9月 22日   18 時 30 分 ~ 19時 45分
会 場 : Web環境 点数:基礎教科 ― 20点
主 題 : 免疫学の基礎 〜生体防御機構をもう一度学びましょう〜
講 師 : 渡邊 剛(埼玉医科大学総合医療センター)
司 会 : 山本 晃司(埼玉医科大学保健医療学部)
参加人数: 会員 169名  賛助会員 0名 非会員 0名

研修内容の概要・感想など
今回は、「免疫学の基礎 〜生体防御機構をもう一度学びましょう〜」というテーマで、渡邊氏より講演が行われた。
免疫血清検査において必要な免疫学的知識について生体内で生じている免疫応答を基にお話し頂いた。我々の体の中にウイルスや細菌などの病原体が侵入した際には、自然免疫と獲得免疫と呼ばれる2つの生体防御機構が働き、病原体を排除している。前者では、生まれながれ備わっている免疫機構であり比較的速やかに作用し、その中心を担う免疫細胞は食細胞(好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞など)である。食細胞の細胞膜にはパターン認識受容体(PRR)が発現しており、各病原体の特徴を認識し、貪食・殺菌などの過程を経て排除される。しかし、これらの機構で全ての病原体を排除出来るわけではない。毒性の強い細菌や細胞内に寄生するといった性質を持つウイルス感染細胞や腫瘍細胞については獲得免疫系により排除される。特に白血球の中でも主にリンパ球が作用する。抗原提示細胞がペプチド断片化した抗原をMHCクラスⅡ分子と共に提示し、それをCD4陽性のヘルパーT細胞がT細胞受容体(TCR)により抗原刺激を受け、細胞性免疫ではCD8陽性のキラーT細胞が活性化し、MHCクラスⅠ分子を認識して、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を特異的に攻撃する。また、液性免疫では、サイトカインに誘導されB細胞が形質細胞へと分化し、抗体を産生する。その抗体は、オプソニン作用や中和作用、補体の活性化に関与し抗原を排除する。
 我々は日常検査においては、感染症や自己免疫性疾患などの検査では抗体価を測定することも多いが、生体内の免疫応答を経て産出される抗体の量や上昇の仕方については個人差も多く、課題もある。単に数値だけを見ていると臨床症状との乖離している症例を経験することもあり、抗体価の上昇と臨床症状を併せて結果を解釈することが大切である。
 今回の研修会で得た免疫学的知識は検査データを解釈する際に重要であり、今後の業務に是非、活用していきたい。

2021/7/28 令和2年度埼玉県精度管理調査報告と婦人科系腫瘍マーカーについて

実施日時: 令和3年 7月 28日   18 時 30 分 ~ 20時 00分
会 場 : Web環境 点数:基礎教科 ― 20点
主 題 : 令和2年度埼玉県精度管理調査報告と婦人科系腫瘍マーカーについて
講 師 : 藤代 政浩(獨協医科大学埼玉医療センター)
        村上 聡 (アボットジャパン合同会社)
司 会 : 末次 遼太(自治医科大学付属さいたま医療センター)
参加人数: 会員 82名  


研修内容の概要・感想など
今回は令和2年度埼玉県精度管理調査報告について獨協医科大学埼玉医療センターの藤代政浩氏に婦人科系腫瘍マーカーについてアボットジャパン合同会社の村上聡氏に講演して頂いた。
埼玉県精度管理報告では、全体的には良好な結果であるとの報告であった。WEB入力になったこともあり、データの入力ミスは無くなったが測定方法の間違いが数件あるとの報告があった。これについてはいま一度、自施設の測定方法について確認をお願いしたい。
今年度は試料の変更が予定されているため測定の際には注意をして頂きたい。
続いて婦人科系腫瘍マーカーについての講演があった。がんの基礎知識に始まり、腫瘍マーカーについて、婦人科腫瘍とマーカーの関連、卵巣悪性腫瘍診断におけるヒト精巣上皮タンパク4(HE4)の有用性について幅広く話をして頂いた。
男女のがん罹患率、死亡率の変化、がん遺伝子パネル検査とがんゲノム医療の現状についても学ぶ事ができ、大変興味深い内容であった。
私たちは日ごろがんのスクリーニングとして腫瘍マーカーを測定しているがこれにはまだ課題が存在している。具体的には感度や臓器特異性があること、数値の上昇はがんの進展に比例し、早期では正常なこともあり早期発見に結び付きにくいなどである。この為、診断では腫瘍マーカーのみに頼らず、他の画像検査等と組み合わせることが重要になっている。
婦人科腫瘍の中でも卵巣悪性腫瘍は治療前に病理組織学的な確定診断が得られていない場合が大部分であり、画像診断に加えて腫瘍マーカーの持つ診断的意義が大きい。腫瘍マーカーのCA125の早期陽性率は約50%程度と高くなく、偽陽性疾患も多い。しかし、HE4はCA125に比べ婦人科良性疾患や妊娠で上昇することが少なく、この2つを組み合わせることで、感度および特異性が向上するとのことであった。
 今回の精度管理報告や婦人科系腫瘍マーカーについての講演内容を今後の業務に活かしていきたい。

2021/5/20 甲状腺疾患の検査と診断

実施日時:令和3年5月20日 18 時 30 分 ~ 19 時 30分
会 場 :Web環境             点数:基礎教科-20点
主 題 :甲状腺疾患の検査と診断                              
講 師 :村田 みさと(富士フィルム和光純薬株式会社)
司 会 :田中 亜紀(熊谷総合病院) 
参加人数:会員 169名  

研修内容・感想など
 今回は甲状腺疾患の検査と診断について富士フィルム和光純薬株式会社の村田みさと氏に講演して頂いた。甲状腺ホルモンの合成から疾患についてまで幅広い話をして頂いた。
 甲状腺疾患の罹患数は500~700万人で治療が必要な患者は約240万人居ると言われているが未治療患者が多く存在しているのが現状である。甲状腺ホルモンは視床下部からのTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)により刺激を受け下垂体よりTSH(甲状腺刺激ホルモン)が分泌される。TSHはTSHレセプターに結合し、T4・T3(甲状腺ホルモン)産生を促進している。ネガディブフィードバックによりホルモンは調整されているが、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症はこのバランスが破綻している状態である。甲状腺機能亢進症はホルモン合成・分泌が高まっている状態でバセドウ病が70~80%、甲状腺炎が20~30%を占めている。甲状腺機能低下症には橋本病が多くみられる。甲状腺機能の評価にはTSH、FT3、FT4を測定するがTSHとFT4に乖離が見られる場合がある。乖離が見られるのは視床下部や下垂体の異常、甲状腺機能亢進症・低下症の治療中に一時的にみられる下垂体の反応異常、生理的要因などがある。生理的要因には妊娠中にHCG濃度が高くなり妊娠性一過性甲状腺機能亢進症を生じる場合がある。妊娠中に甲状腺機能異常が起きると妊娠高血圧症候群、流産、早産などのリスクが高まる為、注意が必要である。
 今回の講演は甲状腺の基礎から疾患に関してと、幅広い内容であり非常に興味深い内容であった。今回の講演内容を今後の業務に生かしていきたいと思った。

2021/4/28 COVID-19重症化メカニズムと関連マーカーについて

実施日時:令和3年4月28日 18時30分~19時30分
会 場 :WEB環境  点数:基礎教科-20点
主 題 :COVID-19について
「COVID-19重症化メカニズムと関連マーカーについて」
講 師 :川手 康徳(シスメックス株式会社 学術研究部 学術研究グループ)
司 会 :冨田 耕平(壮幸会 行田総合病院)
参加人数:会員140人

研修内容・感想など
今回の血清班研修会は現在猛威を震っているCOVID-19の重症化メカニズムと関連マーカーについての講演であった。講師はシスメックス株式会社、学術研究部シニアエンジニア川手康徳先生にお願いした。
講習内容は、COVID-19とは別の類似疾患の研究成果から仮説を立て、300以上の文献を調査・検証し、“COVID-19重症化メカニズム” をイメージ化し、ウイルス感染、免疫血栓、炎症反応、関連項目等の様々な角度からのCOVID-19感染後の体内メカニズムについて整理された内容で、非常にわかりやすい講義となった。感染機序にてACE2受容体への感染に始まり、免疫血栓でのフィブリノゲン、D-ダイマーの増加、炎症反応でのサイトカインストーム、ブラジキニンストームによる様々な関連物質の上昇等々、短い時間の中で様々な内容となり、今まで以上により深くCOVID-19について多くの情報が得られたと考える。
また、日常診療で使用される検査の中にもCOVID-19のリスク評価で出来うる有用項目が多数紹介された。例えば免疫系ではWBCやプレセプシン、凝固系ではFib・DD・FDP、臓器特異的な項目としてはKL-6やトロポニンT・Iさらにはフェリチンなどが重症化で検査値が増減する傾向があり、今後のルーチン検査でも大いに活かせる内容であった。
 COVID-19は今も尚感染が続いており、世界的にも予断を許さない状況である。、本研修会を通して我々臨床検査技師はCOVID-19を取り巻く環境を深く理解する必要があることを強く認識することができ、大変有意義な研修会となった。
今回の研修会は埼玉県内及び県外からの参加も多数見られ、関心の高さが伺えた。研修により得られた情報、知識を今後の業務に活かしていきたい。